「流山市・柏市・松戸市・野田市」周辺の企業様における人事・労務管理を行う社会保険労務士。内山労務管理事務所

内山事務所通信

2012年2月号

労働政策審議会が建議

 【希望者全員の継続雇用を義務付けへ】

 

労働政策審議会(厚労相の諮問機関)は、希望者全員を対象に、65歳までの安定した雇用を確保する措置を企業に義務付けることなどを求める報告書をまとめ、1月6日、厚労相に建議を行いました。

現行の制度では、65歳までの継続雇用制度を導入する場合に、希望者全員ではなく、継続雇用の対象者に係る基準を労使協定で定めることが可能とされています。

しかし、現在、老齢厚生年金の支給開始年齢が段階的に引き上げられており、男性については、平成25年度に定額部分の65歳までの引き上げが完了し、報酬比例部分についても、同年度から61歳に引き上げられ、以後3年ごとに65歳までの段階的な引き上げが実施されることになっています。

こうしたことから、65歳未満の定年制により無年金や無収入となる人が生じることがないように、雇用と年金を確実に接続させるため、現行の継続雇用の対象者に関わる基準は廃止することが適当だとしています。

一方で、企業側からは、継続雇用の完全義務化は、若年者の雇用に大きな影響を及ぼす懸念があるという意見もあることから、その方策として、①希望者全員を対象とするのは、各年代の年金が確実に接続できる時期までとし、それ以降は対象者の選定基準を利用できる特例を認めること、②同一企業だけではなく、子会社や関連会社なども雇用確保先と認めることが必要だとしています。

また、今後すべての企業で雇用確保措置が確実に実施されるようにするためには、指導の徹底を図るとともに、指導に従わない企業に対しては企業名の公表などを行うことも適当だとしています。

これを踏まえ、厚労省では、高年齢者雇用安定法の改正案を通常国会に提出し、平成25年度からの施行を目指しています。

 

(ニュース)社会保障と税の一体改革案を決定

  【パートの社会保険適用拡大を明記】

 

政府・与党は1月6日、社会保障と税の一体改革の素案を正式に決定しました。

年金関連では、過去の特例措置で本来より2.5%高くなっている年金の支給水準を平成24年10月分から3年間かけて減額し本来の水準に戻すことに加え、パートなど短時間労働者については、現行の社会保険の適用基準を拡大することが明記されました。

また、消費税率を平成26年4月に8%、27年10月に10%と2段階で引き上げることにより、その財源で基礎年金の国庫負担割合を2分の1に恒久化するとともに、低所得者の基礎年金加算や受給資格期間の短縮を実施することなども盛り込まれました。

政府・与党は、主な関連法案を年度内に通常国会に提出する方針です。

 

(ニュース)児童手当改正案を国会提出へ

  【24年度以降の「子ども手当」を合意】

 

平成24年度以降の子どものための手当等に関して、12月20日、厚労相など関係4大臣と民主党政策調査会長との会合で、その支給内容の詳細について合意が行われました。

子ども1人あたりの支給額は、3歳未満は月額1万5,000円、3歳以上小学校修了までは、第1子と第2子が月額1万円、第3子以降は月額1万5,000円、小学校修了後中学校修了までは月額1万円とされます。

そして、所得制限以上の人については、中学校修了までの子ども1人につき、月額5,000円を支給するとしています。

厚労省では、児童手当法など所要の改正法案を通常国会に提出する予定です。

 

(ニュース)震災職場の安全&衛生

   【「一人親方」の労災補償範囲を拡大】

 

建設業の個人事業者として労災保険に特別加入している「一人親方」について、震災などの復旧・復興作業中の通常想定されない作業による災害についても、労災保険の必要な給付が受けられることを趣旨とする改正労災保険法施行規則が、1月1日付で施行されました。

特別加入者が被災した場合の保険給付は、同規則に規定された事業内容の範囲内で届出のあった業務の内容を基礎として支給・不支給の判断が行われていますが、復旧・復興作業の中には建設業では通常行うことが想定されない作業が含まれることから、こうした作業中に被った災害についても、適切な補償が受けられるようにすることを目的として改正されたものです。

 

(ニュース)有期契約労働者の処遇

  【5年超えれば無期雇用に転換へ】

 

パートや契約社員など有期契約労働者の処遇などの在り方について検討してきた労働政策審議会は、同じ使用者との間の労働契約が5年を超えて反復更新された場合には、労働者の申出により、期間の定めのない契約に転換させる仕組みを導入することが適当であるとする報告書をまとめ、12月26日、厚労相に建議を行いました。

このほか、無期の契約に転換する際に、賃金などの労働条件は別段の定めがない限りは同じ条件で継続させることも可能とすることや、いったん契約が切れて再び契約する場合に、前後の契約期間が通算されないこととなる期間(クーリング期間)は原則6か月が適当であるとしています)。  

 

(安全・労働衛生)職場の安全&衛正   

  【高年齢化時代の安全・衛生】

高齢社会への移行と災害発生

 

現在、わが国は急速に高齢社会に移行しつつあり、労働人口に占める高年齢労働者の割合も急速に増加してきています。職場の状況も同様の傾向にあり、雇用労働者全体のうち50歳以上の高年齢労働者は、災害発生率が若年労働者に比べて高くなっており、50歳代では30歳代の1.5倍となり、50歳以上の高年齢労働者が休業4日以上の死傷災害全体に占める割合は、4割強となっています。

 

高年齢労働者の活用

 

高齢社会においては、高年齢労働者がその活力を失わずにその能力を十分に発揮することが必要とされています。高年齢労働者は、一般に、豊富な知識と経験を持っていること、業務全体を把握した上での判断力と統率力を備えていることが多いなどの特徴がありますが、一方では加齢に伴う心身機能の低下が現れ、労働災害発生の要因の一つとなっています。

今後、ますます労働者の高齢化が進むものと考えられることから、高年齢労働者の労働災害を防止してその活用を図る事が課題となっています。

 

高年齢労働者の災害防止対策 <<直接的対策>>

 

高年齢労働者の特性に即した労働災害防止対策としては、直接的対策と間接的対策が考えられます。直接的対策としては、以下の対策があります。

①墜落・転落防止対策

(具体例)脚立や移動はしごを避け、高所作業台(車)を活用し無理な姿勢で       の作業を排除する。

②転倒防止対策

(具体例)つまずきの原因となる段差を除去する。

③重量物取扱い方法の改善

(具体例)手押し車等を活用し、また、人力による運搬に適した大きさや重量に       なるようにロットの設定をする。

④作業姿勢の改善

(具体例)高さ調節できる作業台、椅子等を使用する。

⑤視聴覚機能の補助等

(具体例)全体照明に局所照明を併用して作業に必要な照度を持たせるように       する。

 

高年齢労働者の災害防止対策<<間接的対策>>

 

間接的対策としては、以下の対策があります。

①安全衛生管理組織、管理規定、作業標準等の改善

(具体例)高年齢労働者向けの作業標準を作成する。

②安全衛生教育の実施

(具体例)災害事例を使っての高年齢労働者の安全衛生教育を実施する。

③高年齢労働者の技能・知識を生かす職務への配慮

(具体例)生産技術や安全衛生管理ノウハウの継承のため、若年者教育などの       職務を担当させる。 

④健康の保持増進

(具体例)定期健康診断の結果に基づく適切な事後措置を行う。

 

対策の推進

 

定年延長の動向から見ても、雇用の場での高年齢労働者対策はますます重要になってきます。このような対策を講じて職場作りを行うことは、高年齢労働者本人のためにはもちろんのこと、企業や社会全体の活力を維持するために非常に大切であるとされています。各企業におかれてもこのような状況を踏まえて、早めの対策を講じていくことが求められます。

 

(労務管理)トラブル回避の対応術

 【出向は一方的に命令できる?】

事例

当社では、業績が一向に回復しない状況が続いているので、一部の社員に対して、当社に在籍させたままでの他社への出向を検討しています。
 当社の就業規則には、会社が社員に出向を命令できることと、命じられた社員は従わなければならないことを規定していますが、実際に、同意を得ず一方的に出向を命令しても問題はないでしょうか?


出向の意義と命令の有効性

 

一般的に出向とは、労働者が元の企業に籍を残したまま、他の企業においてその指揮命令のもとで働くことをいいます。出向した労働者は出向元および出向先の両方に対して二重の雇用契約を結ぶことになるので、派遣先との雇用契約が生じない労働者派遣とは異なります。

出向は使用者の命令によって行う人事異動の一つですが、企業内での配置転換などと違って、他企業への異動になるので、労働者の地位を使用者が第三者に譲る場合には労働者の承諾を得なくてはならないと定める民法第625条第1項に基づいて、基本的には、出向させる労働者の承諾が必要だとされています。

しかし、この「承諾」に関しては、発令の都度の個別(当人)の同意(承諾)ではなく、就業規則などに使用者の出向命令と労働者の出向義務の根拠規定があれば事前の包括的な同意でも足りるとする学説や判例もあり、争いとなった場合には、個別のケースごとにその有効性が判断されています。

 

労働契約法での出向の定め

 

一方、労働契約法第14条では、出向命令の効力に関して、「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は無効とする」と定めています。

このように、労働契約法においては、使用者が出向を命じることができる根拠規定があるという前提に立って、個別の承諾が必要かどうかではなく、使用者による「権利の濫用」に対して制約を設けています。

権利の乱用かどうかの判断に当たっては、業務上の必要性や人選の合理性だけでなく出向先での賃金などの労働条件、出向元と出向先との関係、出向期間、赴任の事情などの照らして、労働者に相当程度の不利益な状況が生じるかどうかが、重要なポイントであるとされています。

 

権利の濫用とされないために

 

このようなことから、就業規則などにおいて会社が出向を命じることがある旨が記載されていたとしても、実際に出向を命令するときには、できれば同意を取り付けておき、出向命令が権利の濫用とされないように慎重に進めることが必要となります。そのためには、事前に出向先との協議を行い双方で出向契約を交わすこと、家庭など個人的な事情も勘案した上で対象労働者を選定すること、出向に関する規定としては、出向命令と出向義務だけではなく、出向期間中の労働条件に配慮した基本的事項をできるだけ詳細に定め、明らかにしておくことなどが求められるでしょう。

 


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