「流山市・柏市・松戸市・野田市」周辺の企業様における人事・労務管理を行う社会保険労務士。内山労務管理事務所

内山事務所通信

2012年5月号

日雇い派遣を原則禁止に

 【改正労働者派遣法が成立】

2年前の通常国会に提出され、その後継続審議となっていた「改正労働者派遣法」が3月28日、参院本会議で可決、成立しました。
提出時の法案に盛り込まれていた製造業務派遣および登録派遣の禁止については削除され、原則禁止とされる日雇い派遣の範囲についても「2ヶ月以内」の期間の派遣から「30日以内」へと修正されています。

このほか、グループ企業内での派遣に一定の制限を設けることや、違法派遣と知りながら派遣労働者を受け入れている場合には、派遣先が派遣労働者に対して労働契約を申し込んだとみなすことなどが柱となっています。

同改正法は、一部を除いて公布の日から6ヶ月以内の政令で定める日から施行されることになっています。

改正労働者派遣法の概要

①日雇い派遣の原則禁止

日々または30日以内の期間を定めて雇用する労働者の派遣を禁止する。(適正な雇用管理に支障を及ぼすおそれがないと認められる業務の場合、または雇用機会の確保が特に困難な場合等は例外)

②関係派遣先への派遣の制限

グループ企業など派遣元と政令で定める特殊な関係のある派遣先への労働者派遣の割合を全体の80%以下するとする。

③情報提供義務の創設

・派遣料金と派遣労働者の賃金の差額の派遣料金に占める割合(いわゆるマージン率)などの情報公開を義務化する。

・雇入れなどの際に、派遣労働者に対して、1人当たりの派遣料金の額を明示する。

④労働契約申込みみなし制度の創設(改正法施行の3年後に施行)

法律で派遣が禁止されている業務に従事されるなどの違法派遣を行った場合、その時点で派遣先が派遣労働者に対して労働契約の申込みを行ったとみなす。(違法派遣とは知らず、かつ知らなかったことにつき過失がなかったときはこの限りではないものとする)


(ニュース)パートの厚生年金適用拡大へ

  【年金制度改正法案を国会提出】


厚生労働省は3月30日、国民年金法等の一部を改正する法律案を国会に提出しました。
経済界から強い反対のある短時間労働者に対する厚生年金・健康保険の適用拡大については、平成28年4月から、月額賃金が7万8,000円以上で週の所定労働時間が20時間以上などの要件を満たす労働者を新たに対象とすることが盛り込まれましたが、従業員数500人以下の企業では当面この基準を適用しないとしています。

このほか、受給資格期間の短縮、低所得者等への年金額の加算、高所得者の年金額の調整を行うこと(平成27年10月から)、産休期間中の厚生年金および健康保険の保険料免除を行うこと(2年を超えない範囲内で政令で定める日から)などが盛り込まれています。


(ニュース)改正雇用保険法等が成立

  【給付日数の上乗せ措置、2年間延長】


「雇用保険法等の一部を改正する法律」が3月28日、参議院本会議で可決、成立しました。
同改正法は、現下の厳しい雇用情勢の中、労働者の生活および雇用の安定を図るため、リーマンショック以降に実施されていた平成24年3月31日までの暫定措置を2年間(平成25年度末まで)延長することが骨子となっています。延長措置は次のとおりです。

(1)個別延長給付の延長
解雇・倒産・雇止めによる離職者について、年齢や地域を踏まえ、特に就職が困難と認められる場合に給付日数を最大60日延長する。

(2)雇止めによる離職者に対する給付日数の拡充措置の延長
雇止めにより離職した者の給付日数(90~150日)を、解雇・倒産による離職者の給付日数(90~330日)並みとする。


(ニュース)共済年金を厚生年金へ統合

  【被用者年金一元化法案を閣議決定】


政府は4月13日、公務員などが加入する共済年金を平成27年10月に厚生年金に統合する被用者年金一元化法案を閣議決定しました。
同法案では、厚生年金より低い共済年金の保険料率については、毎年段階的に引き上げられ、公務員共済は30年、私立学校教職員が加入する私学共済は39年に厚生年金の上限とされている18.3%(労使折半)に統一されます。

なお、共済年金独自の上乗せ給付である「職域加算」については、同法案から切り離して、有識者会議などで引き続き議論するとしています。



4月1日から、高齢者助成金が一部改正されました

定年の引き上げや廃止、希望者全員を対象とする65歳以上までの継続雇用制度の導入などに取り組む事業主に支給される助成金の一部が改正されました。
「中小企業定年引上げ等奨励金」について、平成24年4月1日以降に「希望者全員を対象とする65歳以上70歳未満の継続雇用制度」の導入により奨励金を申請する場合は、同時に基準に該当する高齢者を70歳以上まで継続雇用する制度を導入すること、および64歳以上(従来は60歳以上)の雇用保険被保険者を雇用していることが必要になります。
また、「高年齢者労働移動受入企業助成金」が新設され、定年を控え、他企業への雇用を希望する高齢者を、職業紹介事業者の紹介により、失業を経ることなく雇い入れる事業主に対して、雇入れ1人につき70万円(短時間労働者40万円)が支給されます。


(安全・労働衛生)職場の安全&衛生

 【階段での事故と安全】

多い階段での転落事故


階段から転落する災害が職場で多く発生しています。業種を問わずに発生しているのですが、どの職場にも階段があり、普段よく利用するので危ない場所という認識があまりにのではないでしょうか。でも、中には、死亡事故になる場合もあります。
今回は、この階段による労働災害について考えてみたいと思います。


事故の特徴


独立行政法人労働安全衛生総合研究所で行った階段からの転落事故の分析では、以下の点が主な特徴であるとされています。
①災害は階段を下りるときに多く発生している
②傷害の程度が意外に重く、死亡者の大部分は頭部打撲である
③災害が発生した階段は急勾配で、また、建築基準法に違反しているものが多い
④年齢別では中高年齢者に多い


事故の原因


ところで、階段からの転落事故の原因については、以下の点が挙げられます。
①急いでいたので駆け足で階段を下りたため
②両手に荷物を持って下がよく見えない状態で下りたため
③スリッパや高いハイヒール等不適切な履物で下りたため
④携帯電話で話をしながら下りていたため
⑤踏み面に物(荷物・植木等)を置いていて、下りるときにそれにつまずいたため
⑥足元を見ないで下りたため
⑦手すりのない暗い階段であったため ⑧段鼻に滑り止めがなかったため ⑨階段が建築基準法に違反し、け上げ(階段の1段の高さ)、踏み面が基準通りに確保されていなかったため
⑩踏み面に水・油・砂・雪が付着していたため
 ①~⑥は不安全な行動が原因で、⑦~⑩は不安全な状態が原因だったということができます。


事故を起こさないための対策


このような階段からの転落事故をなくすためには、以下の対策を取ることが重要です。
①建築基準法の遵守
建築基準法を守ることは当然ですが、階段は、一般的には、け上げは22cm以下、踏み面は21cm以上を確保することが望ましいとされています。
また、幅と勾配については、直通階段(直線の階段)の幅は75cm以上で、踊り場の幅は120cm以上、勾配はJIS規格で30~38度と推奨されています。
②手すりの設置
手すりは、昇降するとき、体重移動を楽にする昇降補助機能を持っています。高年齢者がいる場合は、高さを2段に分けて設置する配慮も必要です。
③適切な照度の確保
階段に適切な照度を確保することも必要です。JISの推奨値は75~150LXとなっています。
④滑り止めの設置
階段の上下の床面、段鼻には滑り止めを設置します。
⑤安全教育の徹底
適切な履物で昇降すること、携帯電話で話をしながら昇降しないこと、階段の昇降時には手すりを持つこと、階段の踏み面に物を置かないこと、両手に物を持って足元が見えない状態で階段を昇降しないこと等の安全教育を日頃から行い、身につけさせることが大事です。

以上によって階段での不安全な状態をなくし、不安全な行動をさせないことを徹底することで事故の発生を防止していくことができます。階段は身近なのでその危険性についてあまり意識をしないと思いますが、自社の階段の安全について一度見直してみてはどうでしょうか。


(労務管理)トラブル回避の対応術

 【賠償金を給与から控除できるか】

事例

当社は、ハウスクリーニングを主な業務としていますが、従業員の不注意が原因で業務中に依頼者の備品などを謝って破損させてしまうこともあり、会社にも責任を負わせるために賠償金の一部を負担させることを検討しています。
この場合、賠償金を給与から控除することができるようにルール化しても問題はないでしょうか?


賃金支払いの原則

 

労働基準法(第24条第1項)は、「賃金は通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」と定めています。このように賃金は「全額払い」が原則となっていて、例外的に次の2つの場合に限り、賃金の一部を控除して支払うことが認められます。
①法令に別段の定めがある場合
(例)所得税の源泉徴収、住民税の特別徴収、社会保険料、労働基準法第91条に基づく制裁金
②労使間で締結した書面による協定がある場合
(例)社宅の家賃、社内積立金、組合費


なお、ここでいう「控除」とは、支払額が確定している労働者の賃金債権についてその一部を差し引くことをいいます。したがって、欠勤や遅刻、早退などがあった場合に固定的賃金を労働の提供がなかった限度で支払わないこととすることは、その部分については元から賃金債権が発生していませんので、全額払いの原則における例外的な「控除」にはあたりません。


賠償金と賃金との相殺


上記②によって控除できるのは、家賃など支払の事由と金額が明白なものに限られますので、損害賠償金は発生原因や労働者の過失の程度、損害額の評価など不確定な要素が多いことから、これを労働者の有する賃金債権と相殺することは例外事項には相当せず、労基法の全額払いの趣旨に反するものと解されています。したがって労使協定によって賃金からの一方的な控除が可能なようにルール化することはできないとされています。
しかし、個別のケースに限られますが、労働者が損害賠償金を支払うことについて、その実際の支払い方法として賃金から控除することを自ら選択するなど、労使間の「合意」によって相殺することは、労働者の完全に自由な意思に基づいていると認めるに足りる合意的な理由があるとして、全額払いの原則によって禁止されるものではないとした裁判例もあります。


賠償予定の禁止


これに関連しているので取り上げますが、労働基準法第16条では、あらかじめ違約金を定め、または損害賠償額を予定する労働契約を結ぶことを禁止しています。
「損害賠償額を予定する」とは、損害額を一定の金額として定めておくことをいいます。つまり、実害があったかどうか、実害額はいくらなのか、過失の程度は、といった事情を考慮せずに機械的に賠償額を決めておくことはできません。
したがって、実際に労働者に損害賠償金の一部を負担させるためには、その事案ごとに事情を十分に考慮して、労働者が納得できる金額を決めることが必要となるでしょう。



バックナンバーはこちらから