「流山市・柏市・松戸市・野田市」周辺の企業様における人事・労務管理を行う社会保険労務士。内山労務管理事務所

内山事務所通信

2012年9月号


5年超は無期雇用への転換を義務付け

 【改正労働契約法が成立】

労働契約が5年を越えて反復して更新された有期契約労働者について、本人が申し出た場合は無期限の労働契約への転換を事業主に義務付けることを柱とした「改正労働契約法」が、8月3日の参議院本会議で可決、成立しました。
 無期労働契約への転換義務付けは、改正法の公布日(平成24年8月10日)から1年以内に施行されますが、施行日より前の日が初日である有期労働契約は、5年の通算期間に参入されないことになっていますので、実質的には施行日より5年を経過してからの適用となります。


【改正法の概要】

1.有期労働契約の無期労働契約への転換

反復更新された有期労働契約が通算して5年を超える労働者が無期労働契約の締結の申込みをしたときは、別段に定めがある場合を除いて現に締結している労働契約と同一の労働条件で、その申込みを承諾したものとみなす。
 有期労働契約を通算するにあたって、1つの有期労働契約が満了した日と次の有期労働契約の初日との間(空白期間)が6ヵ月ある場合などは、空白期間前に満了した有期労働契約の期間は通算しない。


2.有期労働契約の更新(平成24年8月10日施行)

次の①、②のいずれかに該当する有期労働契約を締結している労働者が更新の申込みをした場合は、その申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件でその申込みを承諾したものとみなす。
①有期労働契約を終了させることが、無期労働契約を締結している労働者を解雇することと社会通念上同視できると認められるもの
②労働者が有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められるもの


厚生年金保険料率が引き上げられます

今年9月分(10月納付分)からの厚生年金保険料率が、0.354%引き上げられ、16.766%(一般の被保険者)となります。事業主負担分および被保険者負担分は、この半分の8.383%です。
 なお、厚生年金基金に加入する方の厚生年金保険料率は、基金ごとに異なります。


(ニュース)中央最低賃金審議会が目安を提示

 【最低賃金、平均7円引上げ】


中央最低賃金審議会はこのほど、平成24年度の地域別最低賃金額改定に関して、全国平均で7円引上げ(744円程度)となる目安を提示しました。
 最低賃金は、各都道府県の経済実態に応じ、すべての都道府県をABCDの4ランクに分けたうえで、引上げ額の目安が提示されていますが、今回はAランクは5円、B~Dランクは4円を原則としています。
 しかし、最低賃金額が生活保護水準を下回っている11の都道府県は、その差額を解消するために、ランク別の引上げ額と各都道府県に設置された地方最低賃金審議会が定めた額をを比較して大きい方の額を引上げの目安としています。
 都道府県ごとの改定後の地域別最低賃金額は、近く正式に決定されます。


(ニュース)厚労省研究会が報告書を公表

  【精神障害者の雇用義務化を求める】


障害者雇用促進制度における障害者の範囲などの在り方を検討している厚生労働省の研究会は8月3日、報告書をまとめ公表しました。
 同報告会では、障害者の就職率が向上しているなか、とくに精神障害者の新規求職申込み数が著しく増加していることから、身体障害者と知的障害者に限っている現在の雇用義務の対象を精神障害者にも拡大し、企業にも積極的な雇い入れを促すことを求めています。
 ただし、雇用義務化にあたっては、企業内で理解を得られる環境づくりが必要であるとし、個人と企業とのマッチングや定着を支援する体制、企業と外部の支援機関が連携していく体制を充実させることも必要であることから、実施時期などについては慎重に結論を出すことが求められるとしています。


(ニュース)裁判員制度の実施状況

  【「事業の重要な用務」での辞退が24.1%】


最高裁判所事務総局はこのほど、平成23年における裁判員制度の実施状況などを取りまとめました。
 選定された裁判員候補者13万1,860人のうち、59.1%に当たる7万7,909人について辞退が認められています。
 また、辞退が認められた裁判員候補者の辞退事由別の内訳をみると、70歳以上や学生などのいわゆる「定型的辞退理由」を理由とする人が37.4%(2万9,157人)で最も多く、次いで「従事する事業における重要な用務」が24.1%(1万8,777人)、「疾病障害」が14.4%(1万1,206人)と続いています。
 辞退事由の「事業における重要な用務」については、単に仕事が忙しいというだけでは辞退できないことになっていて、裁判員になることにより事業に著しい損害が生じる場合や、経済上の重大な不利益が生じる場合には、裁判所の判断で辞退が認められることになっています。


(ニュース)

  【社会保障と税の一体改革関連法が成立】


「消費増税や短時間労働者に対する厚生年金・健康保険の適用拡大、子育て支援などを柱とする「社会保障と税の一体改革関連法」が、8月10日の参議院本会議で可決、成立しました。


(安全・労働衛生)職場の安全&衛生

 【健康診断結果と個人情報保護】

健康診断と健康情報


定期健康診断や有害業務従事者に対する特殊健康診断は、労働安全衛生法で事業者の義務とされていますが、今回は、その結果得られる労働者の健康情報の取扱いの注意点について説明したいと思います。


【個人情報保護の流れ】

労働者の健康情報がより厳しく管理されるようになったのは、平成15年に個人情報保護法が制定され、健康情報は個人情報の中でも特に機微な情報であり、厳格に保護されるべきものとされたことによります。
 個人情報保護法の施行に当たり、各分野でガイドラインが設けられました。雇用の分野においても「雇用管理分野における個人情報保護に関するガイドライン」(平成24年7月1日改正・適用)が策定されましたが、健康情報については特別に「留意事項」が示されています。以下がこの「留意事項」のポイントです。

ポイント①生データの取扱い
 健康診断の結果のうち診断名、検査値等のいわゆる生データの取扱いについては、その利用に当たって医学的知識に基づく加工・判断等を要することがあることから、産業医や保険師等の産業保健業務従事者に行わせることが望ましいとされています。
 また、産業保健業務従事者以外の者に健康情報を取り扱わせる時は、これらの者が取り扱う健康情報が利用目的の達成に必要な範囲内に限定されるよう、必要に応じて、産業保健業務従事者に健康情報を適切に加工させた上で提供する等の措置を講ずることとされています。

ポイント②ルール化
 事業者は、健康診断等の実施を医療機関に委託することが多いことから、健康情報についても外部とやり取りをする機会が多いことや、事業場内においても健康情報を産業保健業務従事者以外の者に取り扱わせる場合があること等に鑑み、あらかじめ以下に掲げる事項について事業場内の規程等として定め、これを労働者に周知するとともに、関係者に当該規程に従って取り扱わせることが望ましいとされています。
(a)健康情報の利用目的に関すこと
(b)健康情報に係る安全管理体制に関すこと
(c)健康情報を取り扱う者及びその権限並びに取り扱う健康情報の範囲に関すること
(d)健康情報の開示、訂正、追加又は削除の方法(廃棄に関するものを含む。)に関すこと
(e)健康情報の取扱いに関する苦情の処理に関すこと
そして、事業者は、この規程等を定めるときは、衛生委員会等において審議を行った上で、労働組合等に通知し、必要に応じて協議を行うことが望ましいとされています。

ポイント③健診結果の通知
 事業者は、健康診断を受けた労働者等に対し、遅滞なく、その結果を通知することとされています。

ポイント④取得すべきでない情報
 HIV感染症やB型肝炎等の職場において感染したり、蔓延したりする可能性が低い感染症に関する情報や、色覚検査等の遺伝情報については、職業上の特別な必要性がある場合を除き、事業者は、労働者等から取得すべきでないとされています。


【個人情報保護の見直し】

このような観点から、各職場の健康情報の取扱いを見直してみることも大事ではないでしょうか。


(労務管理)トラブル回避の対応術

 【手当カットで最低賃金を下回る?】

事例

当社は試用期間中の者について、給与規程に基づいて通常よりも低い給与額としています。支給しているのは月額の基本給のほかに皆勤手当、通勤手当、残業手当です。
 このほど、試用期間中の社員を監督する者から、遅刻や早退が1回でもあって皆勤手当が全額カットされると月によっては最低賃金を下回るのではないか、という指摘がありました。この給与を定めた雇用契約書には合意してもらっているのですが、このままでは問題になるのでしょうか?


最低賃金の対象となる賃金


使用者は、法律により労働者に対して国が定める最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないことになっていますが、最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金です。ただし、次の賃金は最低賃金の対象とはなりません。
①1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
②臨時に支払われる賃金
③時間外労働、休日労働および深夜労働の手当
④精皆勤手当、通勤手当および家族手当


月給制と最低賃金


現行の最低賃金は時間額で決められていますので、月給制の労働者の場合、実際に支払われる賃金が最低賃金額以上かどうかを確認するためには、次のような計算で、対象となる賃金の月額を時間当たりの金額に換算し、最低賃金の時間額と比較します。
月給額÷1ヶ月平均所定労働時間数≧最低賃金額
たとえば、1年間の所定労働日数が255日(1日8時間勤務)、基本給が130,000円、皆勤手当が10,000円、通勤手当が20,000円、合計が160,000円だとすると、皆勤手当と通勤手当は算入しないので、
130,000円÷(255日×8時間÷12ヵ月)=764.7円
となり、この額が最低賃金額以上であることが必要となります。


今回のケースでは、皆勤手当がカットされると最低賃金を下回る、という指摘があったようですが、皆勤手当はもともと最低賃金の対象とはなりませんので、皆勤手当の支給の有無にかかわらず、基本給のみで時間額に換算すると、すでに最低賃金を下回っている状態にあることが考えられます。
 たとえ最低賃金額より低い賃金を労働者、使用者双方の合意の上で定めていたとしても、最低賃金額に満たない賃金を支払った場合には、少なくとも最低賃金額との差額を支払わなくてはなりませんので、早急に皆勤手当のあり方も含めて試用期間中の賃金の見直しが必要となるでしょう。


最低賃金の減額の特例許可制度


雇用する労働者に一定の障害があって一般の労働者より著しく労働能力が低い場合、就業規則などに定められた試の使用期間中である場合などに、労働者を特定した上で、使用者が都道府県労働局長の許可をあらかじめ受けることを条件として、特例的にその労働者に適用する最低賃金の減額が認められています。
 ただし、試の使用期間中にある労働者について減額の特例許可の対象となるのは、減額対象労働者の賃金を最低賃金額未満とすることに合理性がある場合に限られます。



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